February 22, 2024

Thoughts on towels


身体を拭くための布は、旧石器時代の遺跡や紀元前2世紀のエジプトの埋葬品からも発見されており、麻で織られた現代のタオルに近いパイルのあるテリー織の技術があったらしく、入浴が習慣化し社会生活の中心に大浴場があった古代ローマ時代には既にバスタオルはあったようです。

18世紀に始まる産業革命の始まりがタオルの原点でもある綿工業であることは興味深く、産業革命で始まる工業化と資本主義による加速度的な近代化への変化は多くの問題を孕みながら今も続いています。18世紀に始まった産業革命も19世紀に入った頃にイギリスでトルコの織物を手本としたターキッシュタオルが製品化されますが、衛生商品としてタオルが普及するのはその技術がアメリカに渡り工業製品として量産化されてからです。タオルは万人のアメニティを向上させる日用品としてアメリカを起点に世界中へと普及して行きました。そこから170年ほど経った今日、タオルはどのように進化を遂げたのでしょう。

最盛期のアメリカの代表的なメーカーは、スティーブンス、キャノン、フィールドクレストの3社でした。これらのメーカーが工業製品としてのタオルの研究開発を怠らずに生活のアメニティを向上させるタオルに進化させて行きました。中でもフィールドクレスト社は綿花の品種改良から栽培生産までを管理し、紡績、製織、染色、縫製、流通、販売の製造直販体制でホテルを中心とした業務用卸を背景に衛生商材としての一貫生産のタオルの全米ネットワークを実現させました。拡販をしながら質の改善も極めてきたアメリカのタオル産業は、誕生からほぼ140年で生成発展の為の過度な投資が原因で21世紀にアメニティ向上のための生活文化技術を継承することはできませんでした。果たして生き残ったその他の国のタオルは進化を常態とした最盛期のメイドインUSAのタオルよりも進化を遂げているでしょうか。

細い糸による無撚糸を主流とした柔らかさ重視のほとんどの日本製のタオルは、日本独特の贈答文化の一翼を担うタオルのギフト需要を最大化するために柔らかさを一番の付加価値としたようです。10年以上もつづくこの傾向は、 無撚糸のタオルしか作ったことのない若い生産者や無撚糸のタオルしか使ったことのない購買層を生みます。 多様化が世界中で声高に問われる時代に日本では、タオルはほぼ無撚糸のタオルに画一化されているようにも見えます。資本主義の申し子のようなタオルが進化の途中でその資本主義の仕組みによって発展を中断されるのは何とも皮肉です。そこからは資本主義では国民生活のアメニティの満足度の最適化よりも生産効率と利益の最大化が勝るという現実が垣間見えます。

アメニティのリアリティを実現するためのタオル革命は、進化の途中で中断されたアメリカのタオルの製法から学ぶことから始まると思います。時代の推移がすべての事物を進歩させるとは限らず、退化させることも間々あるのです。リトルのタオルは80年代の最盛期のアメリカのタオル、特にフィールドクレストのロイヤルベルベットというウェルメイドラインの製品に学び、太番手の単糸に紡績時に適正回転数撚りをかけ長いパイル用の経糸にして テリーモーションと呼ばれる方法でそのパイル用の経糸を弛ませて緯糸で挟みパイルをつくります。このパイルが染色の工程で水に晒されると撚りの反撥でパイルが捻れて紐状になります。 この一連の技術をロングパイルツイスト製法といいます。誕生してまだ200年にも満たないタオルは、未だ発展途上の工業製品だと思います。フィールドクレスト社や後にフィールドクレストと合併したキャノン社やスティーブンス社が 乾燥機の使用に適したタオルを開発して鎬を削ったのはほんの僅かな期間でした。アメリカのタオル産業が終焉する少し前の80年代までのアメリカのタオルは、世界最高のタオルだったと思います。あの時代のアメリカ製のタオル以上のタオルは未だつくられていないと思っています。

金融資本主義による投機の対象となったタオル産業もまたハゲタカたちの餌食となった人類の社会的文化財です。あのままアメリカでタオルが進化しつづけたらどうなったか?タオルが発明されてまだ200年も経っておらず、この長さはそのまま百貨店の歴史でもあり、映画の歴史でもあります。百貨店も映画も人類の社会的文化財です。産業革命から工業化社会そして脱工業化へと資本主義による近代化は負の遺産もたくさんありますが、わたしたちは良くも悪くもここまでやって来たのです。それが歴史です。百貨店は資本主義に燦然と輝く消費の殿堂から果たして遺産とならずに流通業態として進化しつづけることができるか?将又社会的文化財として存続つづけるのか?これは映画も、またタオルに至るも同じ課題です。進化とは今のままを残すことも含まれるようにも思います。そのためにどうするか?単一的ではなく複合的な考えと活動が必要にも思います。単一で万人向きではないがある種の認識を待った人々のためのアメニティを満足させるものたち。この辺りの答えを探りながらタオルをつくりつづけているようにも思えます。

トルコの織物を手本にイギリスで誕生した高級品のターキッシュタオル(パイルタオル)がアメリカに渡り、工業製品として万人のアメニティの向上を果たす物語は、産業革命から生まれた衛生商品のタオルがすべての家庭に普及する生活革命です。会社が無くなる寸前まで進化をつづけていたアメリカ製のタオルは、スティーブンス、キャノン、フィールドクレストの3社がアメリカをはじめ世界のタオルのアメニティの向上のために研究開発をつづけました。キャノンとフィールドクレストが合併した後に140年続いたアメリカのタオル産業はフィナーレを迎えましたが、この開発の物語のつづきを見たくてしかたありません。

リトルのタオルには綿々とつづいたこのタオルの進化の物語りの続編を小さく紡いでいるという自負があります。